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Channel: ambassador @ young-germany.jp
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「もう一度日本でしたいこと」(6)

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気がつかないうちに定年退職の日が近づいているので、そろそろ用意しないといけないのだ。だから『大使日記』はこれから週末だけ普段の「日記」を書き、毎日「日記」の代わりに、「日本では何がよかったのですか」と時々聞かれることに、答えとして準備したことを少しずつ書きたいと思う。「もう一度日本でしたいこと」という。よろしくお願いします。


大使公邸

「ベルリンに戻ってこの見事な公邸に住まなくなったら、慣れるまでさぞ大変でしょうね」。ドイツの外務大臣が最後に日本を訪問したとき、こう言われました。ちょうど、大使公邸のテラスに立って庭を眺めていたときです。おっしゃるとおり。でも実は、これよりもさらに素晴らしい眺望があるのを大臣はご存じない。それは早朝、二階バルコニーの朝食テーブルから見下ろす庭の眺めです。公邸の庭は、100年ほど前に造園され、1960年頃、数百人の訪問客にも対応できるように多少改修されました。潅木の茂み、聳え立つ木々、広い芝生の庭、小さな池、水の流れ、井戸。この庭園には、冬も含め四季折々、花を咲かせる草木がどこかしらにあります。春にはあちらこちらで桜が咲き、秋には紅葉が色づき、夏には銀杏、冬には松、というわけで、いつもまるでその季節のためだけに造られた庭ではないかと思えるほどです。冬の雪の朝、庭を一周すると、さまざまな趣に富んだ眺めに心を奪われます。春の桜は、あちらこちらの枝が白やピンクの花をつけているのが遠くからも見え、まるで山景色のようです。蒸し暑い夏には、降りしきる雨や台風の風に揺れる濃い緑に圧倒されます。秋には、さまざまな種類の紅葉が、少しずつ時期をずらして色づき、庭のどこを歩いても、さまざまな角度からの眺めを楽しませてくれます。木々の間には鐘楼や、四阿や、小さな祠や、石像も見えます。朝の散歩において(また、時としてヤブ蚊からの逃亡において)時間と世界に向き合う。私は日本を去ることになりますが、新しい土地に慣れるのは、ひょっとしたら外務大臣が言うほど大変ではないかもしれません。だとしても、ぜひまたこの庭を訪れたいものだと思っています。

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